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研究所レポート

北濃研究員に聞きました

北濃研究員に現在進行中のプロジェクト研究「MYLSスタディ®」や、睡眠が心身の健康に及ぼす影響について伺いました。




北濃研究員は2016年から体力医学研究所に入職されています。最初のころの研究所の印象はいかがでしたか?

もともと共同研究をしている先輩が在籍した研究所だったので、不安はなかったです。のびのびと自由に研究できる環境だと思いました。仲間にも恵まれたと思っています。結構のめりこみやすいタイプなので、研究の合間に筋トレをやったり、テニスをしたりが気分転換になりました。



現在北濃さんが中心になって進めているプロジェクト研究であるMYLSスタディ®について伺います。これはどういった内容ですか?

明治安田新宿健診センター受診者を対象としたコホート研究です。座りすぎや身体活動、そして個人的には睡眠も含め、それらの行動と心身の健康との関連性を明らかにすることを目的にしています。

研究成果の一部は、予防医学分野の国際学術雑誌Preventive Medicine Reportsに2020年10月8日付で公開されました(論文タイトル: Compositional Data Analysis of 24-hour Movement Behaviors and Mental Health in Workers. 日本語訳:勤労者における24時間の身体行動とメンタルヘルスの横断的関連性)。

プレスリリースでも公開していますね。研究成果のポイントを教えてください。

まず、勤労者の活動量を実測して、24時間の行動とメンタルヘルス(心理的ストレスと仕事への活力)の関連性について調べました。その結果、休日ではなく、平日の過ごし方(時間の使い方)が勤労者のメンタルヘルスにとって重要だということが明らかになりました。具体的には、職場での座位行動や低強度身体活動の時間を1日当たり60分減らして睡眠に充てると、メンタルヘルスが不良になる可能性が11-26%程度低くなるということです。



※関連プレスリリースはこちら

対象が勤労者ということもあり、最近では、座位行動や身体活動と仕事への活力や労働生産性などとの関連性にも着目しています。

「仕事への活力」を評価するのは、健康経営的にも面白いですね。同じ仕事でも、やらされているのか、積極的に自分から取り組んでいるのかによって、労働生産性に影響してくるような気がします。

ワークエンゲイジメントのことですね。これに着目したのは、研究所内でのディスカッションから生まれたアイディアです。勤労者の行動変容が従業員の働く姿勢や企業の生産性につながれば、経営者にとってもメリットではないかという考え方からきています。

今、研究自体をもう少しスピードアップできないかと考えています。現在は横断研究で、研究としては最初の一歩ですが、将来的には因果関係に言及できるような縦断研究を行い、日本人や勤労者における睡眠や座位行動の在り方を提言できるところまで進められたらいいなと思います。

この研究もそうですが、北濃さんは「睡眠」に興味を持っていらっしゃいますね。いつごろから研究対象にされていたのですか?

きっかけは大学の卒業論文です。研究テーマに悩んでいたときに研究室の先輩が提案してくれたのが「睡眠」でした。もともと寝るのが好きだったのもありますが、「そういえば睡眠って深く考えたことがなかったな。生きるうえで大事な行為だし“何となくおもしろそう”」という好奇心からスタートしました。卒業論文では「高齢者の睡眠と身体・心理・認知機能の関連性」について研究し、睡眠時間の過不足や、睡眠の満足度が低いとこうした機能が低いということを明らかにしました。

「睡眠」と心と身体の状態には、密接な関係があるということですね。

そうです。さらに、このように大切な行為である睡眠をどうすれば良くできるか?と考えはじめました。そして「そういえば部活動の後はぐっすり寝ることができているような…」ということに気づき、「運動と睡眠の関連性」に興味を持ちました。先行研究を調べても意外と研究が少なかったので、ここに着目して修士論文、博士論文では「運動による睡眠改善の可能性」について研究しました。

「睡眠」のどういうところが研究としておもしろいですか?また、逆に難しいところがあれば教えてください。

睡眠は1日の3分の1もの時間を費やすことからもわかりますが、人生・健康においてとても重要な行動です。なのに、「良い睡眠とは何か?」「なぜ、寝る必要があるのか?」がわかっていないという点に、好奇心や科学的な探求心をかき立てられます。

難しい点も同じで「良い睡眠」を定義できないことです。現時点では良い睡眠(適切な睡眠時間)は人によって異なると考えられています。しかし、私が普段行っている疫学研究では、何千~何万人という集団の睡眠を“平均値”として扱っています。研究のなかでこうした個人差をうまく考慮しながら、健康にとって最適な睡眠を見つけ、促進していくことはとても難しいと思います。

良い睡眠が定義できたとしても、それを促進することは難しいのです。特に日本では、睡眠はないがしろにされやすく、忙しいときや、他にやりたいことがあると、真っ先に削られる時間です。また、運動などとは異なり「寝たいのに寝られない」という問題もあるので、睡眠を変える、しかも集団戦略的に変えるというのは難しいなと感じています。

現状では、どんな手法で研究を進めていらっしゃるのですか?

1日は24時間と有限ですので、寝るためには睡眠以外の行動時間(身体活動や座位)を減らす必要があります。そこで、ここ数年は睡眠を、24時間を構成するひとつの行動ととらえ、「1日をどうやって過ごすと健康に良いか?各行動の最適なバランスは?」といった、身体活動、座位、睡眠の複合的な健康効果に関する研究を進めています。

「1日が有限」という考え方は、当たり前のようですが、忘れられがちです。つい、「もう少し運動を」とか、「十分な睡眠を」とか自分に課してしまい、結果、根本的な問題解決から遠ざかってしまうことがよくあります。そこで、実効性のある提言が必要ですね。ところで、研究に対して何かこだわりをお持ちですか?

まずは、妥協しないということです。特にデータの整理や分析は妥協したくありません。また、常に、社会的にも個人的にもおもしろいと思う研究テーマを選ぶように心がけています。研究テーマにこだわりを持つ一方で、時代や社会的ニーズに合わせて変化させていく、そういう感覚を大切にしたいですね。それには、常に知識や技能を更新し、学び続ける姿勢が大切だと思っています。

とても重要なことだと思いますが、一方で日常生活との両立は可能ですか?

基本的に両立できないものと考えています(笑)。work-life-balanceは永遠の課題です。研究というものはとても時間がかかりますし、1日は残念ながら、24時間と決まっていますので。

どちらにも思い入れが強いのですね。そこはぜひ、バランスよくやっていただければと思います。最後に、研究者として現在目指しているところを教えてください。

人の健康づくりに寄与する形に残るもの、たとえば、基準値や運動プログラムなどをつくることです。できれば、日本人の勤労者の基準となる指標をつくりたいですね。
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