公益財団法人 明治安田厚生事業団

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研究の紹介

ふくらはぎ周囲長の変化から骨格筋量の変化を推定する

概要


◎ 健康のためには筋量の保持・増進が必要不可欠ですが、筋量の測定には専用の機器が必要なため、手軽に自分の筋量の変化を把握することは困難です
◎ 私たちの研究では、世界で初めて、ふくらはぎ周囲長の変化と筋量の変化の関係性を検討しました
◎ 年齢や肥満状況にかかわらず、ふくらはぎ周囲長の変化と筋量の変化との間には正の相関関係があることがわかりました

背景


筋量は若年期をピークに加齢に伴い徐々に減少し、高齢期になるとその減少が加速します。特に高齢期に著しく筋量が不足すると、歩く速度が低下し転びやすくなるなど、日常生活に大きな支障を及ぼします。一方、筋量の測定には専用の測定機器が必要であるため、自身の筋量を把握できる機会はほとんどありません。筋量の衰えを気軽に把握することができれば、筋量減少の予防・改善にいち早く取り組むことが可能になります。

そこで私たちの研究では、近年、筋量の簡便なスクリーニング法の一つとして広まっているふくらはぎ周囲長に着目し、筋量変化の把握に活用できるか否かを検討しました。具体的には、個人のふくらはぎ周囲長の変化と筋量の変化を調査し、これらの関係性を縦断的に検討しました。

対象と方法


本研究は2015年3月から2024年9月の間に計2回のWASEDA’S Health Study1に参加した40~87歳の日本人成人227名(男性149名、女性78名)を対象とした縦断研究2です(追跡期間は平均8.0年)。参加者の両ふくらはぎ最大周囲長を立位で計測し、左右の平均値を分析に用いました。また専用機器(二重エネルギーX線吸収測定法)を用いて両腕脚の筋量(四肢筋量)を測定し、ふくらはぎ周囲長の変化と筋量の変化の関係を分析しました。

結果


ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化との間には正の相関関係が確認されました(男性:r = 0.71、女性:r = 0.71)。これらの関係性は年齢や肥満状況別にみてもおおむね同様の関係でした(中年者:r = 0.70、高齢者:r = 0.67、非肥満者:r = 0.69、肥満者:r = 0.72)。更に、ふくらはぎ周囲長の変化は、腕の筋量(男性:r = 0.51、女性:r = 0.38)よりも脚の筋量(男性:r = 0.71、女性:r = 0.75)の変化とより強く関係することが示されました。
図1. 男女別にみたふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化の関係性


図2. 年齢別にみたふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化の関係性


図3. 肥満状況別にみたふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化の関係性

筆頭著者のコメント


本研究はふくらはぎ周囲長の変化と筋量の変化の関係性を検討した世界初の縦断研究です。本研究の結果から、年齢や肥満状況にかかわらず、ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化との間には正の相関関係があることが示されました。

気軽に筋量変化の把握が出来れば、早期に筋量の衰えに気づくことが可能となります。筋量や筋力が低下した状態は「サルコペニア」と呼ばれますが、何歳からでも筋力トレーニングなどによって予防・改善が可能であるため、生活に支障が出る前に改善に取り組むことが重要です。一般に、ウエストが太くなったら肥満を気にするように、ふくらはぎが細くなったら筋量の減少を気にするのが当たり前になる日常が来ることを願っています。

用語解説


1. WASEDA’S Health Study (Waseda Alumni’s Sports, Exercise, Daily Activity, Sedentariness and Health Study):早稲田大学の卒業生やその配偶者を対象として、運動や食事などの生活習慣が健康に及ぼす影響を長期間にわたり追跡調査を行う研究プロジェクト。
2. 縦断研究:個人内の変化を正確に捉えるために、同じ対象者に対して追跡調査を行う手法。

掲載誌:Clinical Nutrition ESPEN
論文タイトル:Relationship between longitudinal changes in calf circumference and skeletal muscle mass(ふくらはぎ周囲長の変化と骨格筋量の変化の縦断的な関係)
著者:Ryoko Kawakami, Kumpei Tanisawa, Nobuhiro Nakamura, Tomoko Ito, Chiyoko Usui, Yumiko Inoue, Yiwen Chen, Daiki Watanabe, Motohiko Miyachi, Suguru Torii, Taishi Midorikawa, Kaori Ishii, Katsuhiko Suzuki, Shizuo Sakamoto, Mitsuru Higuchi, Koichiro Oka
DOI番号:10.1016/j.clnesp.2025.05.044
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