公益財団法人 明治安田厚生事業団

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研究の紹介

休日にまとめて運動するより週3回以上が睡眠に効果的

概要

これまでの研究で睡眠の改善に運動が有効であることはわかっていますが、効果的な実践方法については未だわかっていません。そこで私たちは、首都圏在住の勤労者3,621名を対象に質問票による調査を実施し、「主観的睡眠感(自分で感じる睡眠の質)」を1年後も高く維持するためには、どのように運動すると良いか」検討しました。


その結果、週3日以上、計10METs時(註1)以上の運動を行っている人は行っていない人と比べ、1年後に睡眠の質を「やや悪い」「非常に悪い」と感じる可能性が約40%低いことがわかりました(図1)。一方、ほとんど同じ量でも週1〜2日しか運動しない人ではこうした結果は見られませんでした。つまり、満足度の高い睡眠を維持するためには、こまめに運動した方がより大きな効果を期待できます。

(註1)METs
「METs(メッツ)」は身体活動(家事、仕事、運動などの体を動かすすべての行動)の“強さ”を表す単位です。じっと座っている状態は1METs、歩いている状態は3METsに相当します。「METs時」は身体活動の“量”を表す単位で、「METs」に実践時間をかけたものです。例えば、3METsの運動を2時間行うと「6METs時」となります。世界保健機構(WHO)は心身の健康増進のために週10METs時以上の運動(例えば約1時間半のジョギング)を行うことを推奨しているため、本研究では健康増進につながる余暇身体活動量(余暇に行う運動やレジャーなどの身体活動)を10METs時/週としました。
図1
(註2)オッズ比
事象(本研究では、1年後の不良な主観的睡眠感)の起こりやすさを表す指標

(註3)
年齢、性、喫煙・飲酒習慣、休日数、BMI、経済状況、心理的ストレス、非余暇身体活動量といった影響を除外して分析しました。

背景

Doiら(2005)の調査によると、日本では約3人に1人の勤労者が睡眠に何らかの問題を抱えています。労働には、残業や職場の人間関係など不眠につながる要因が多数潜んでおり、こうした睡眠の問題は、心身の健康を害するだけでなく労働生産性の低下にもつながるため(Hafner et al., 2017)、勤労者の睡眠の質を高く維持することは重要な課題です。これまでの研究で睡眠の改善に運動が有効であることはわかっていますが、効果的な実践方法について具体的な値は示されていません。


週末に集中して運動する人を欧米では「weekend warrior(週末戦士)」と呼び、近年、こうした短期集中型の運動が心肺機能の向上や死亡リスクの低下につながることが報告されています(Manthou et al., 2015; O’Donovan et al., 2017)。しかし、「weekend warriorの睡眠は良好なのか?良好な睡眠を維持するには、どのように運動すればよいか?」という疑問を検討した研究はないため、今回、我々はこの課題に取り組みました。

内容・成果

対象

2013年度に東京都内の健診機関で定期健診や人間ドックを受診した21歳以上の勤労者10,326名のうち、下記の2点を満たした3,621名(平均年齢47.9±10.8歳;女性43,9歳)を対象としました。

①調査項目に欠損がない、精神疾患の既往がない、睡眠薬を服用していない、2013年時点で主観的睡眠感が不良ではないといった、研究対象となる基準を満たす
②2014年度にも同施設を受診した

調査方法

自己式質問紙調査票を用い、下記の2つの項目を調査しました。

①余暇身体活動量
国際標準化身体活動質問紙 日本語版(International Physical Activity Questionnaire long version)を用い、以下の4群に分類しました。
 1.運動していない
 2.週10METs時未満の運動
 3.週1〜2日、計10METs時以上の運動
 4.週3日以上、計10METs時以上の運動
②主観的睡眠感
「自分の睡眠の質を全体としてどう評価しますか?」への回答をもとに、以下の4群に分類しました。1,2は良好、3,4は不良と定義しました。
 1.非常に良い
 2.やや良い
 3.やや悪い
 4.非常に悪い

結果

週3日以上、計10METs時以上の運動を行っている人は、行っていない人に比べて1年後の「主観的睡眠感(自分で感じる睡眠の質)」が不良となる可能性が40%低いことがわかりました(註3)。一方、こうした余暇身体活動の恩恵は、週10METs時未満、または週1〜2日、計10METs時以上の運動を実施する人(weekend warrior)では確認されませんでした。ここで、「こうした結果は単純に運動の量による違いではないか」という疑問がわきますが、運動量の影響を考慮して比較した場合も同様の結果を得ました。

今後の予定

本研究では、余暇における運動量を対象者の自己申告により評価しましたが、主観的評価では実際よりも過大・過小評価してしまうと言われているため、今後は加速度計などを用い客観的に評価する予定です。また、今回の対象者は、定期健診を受診した首都圏在住の勤労者であるため、第2次・第3次産業就業者が大半を占めていると予想されます。今後は、第1次産業就業者や睡眠に問題を抱えやすい属性(シフトワーカー、高齢者、閉経後の女性など)、また地域を広げて調査していく予定です。


掲載雑誌
北濃成樹,角田憲治,甲斐裕子,神藤隆志,内田賢,小野寺由美子,朽木勤,永松俊哉. 勤労者における余暇身体活動の実践パターンの違いが1年後の主観的睡眠感に及ぼす影響.
体力研究 115:15-22, 2017

研究メンバー
明治安田厚生事業団 体力医学研究所 永松俊哉、甲斐裕子、神藤隆志
明治安田厚生事業団 ウェルネス開発室 小野寺由美子
山口県立大学 角田憲治
明治安田健康開発財団 内田賢
兵庫大学 朽木勤

著者
明治安田厚生事業団 体力医学研究所 北濃成樹 研究員




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