健康づくりウォッチ
2018年3月19日
乳がんと遺伝
がんは遺伝するか?
厚生労働省によると、国民の2人に1人が生涯のうちにがんに罹り、3人に1人ががんで死亡すると予測されています。また別の統計では、生涯、何らかのがんに罹患するリスクは男性で60.0%、女性で44.9%とされています(「がんの統計2014年度版」)。家族の中にがん患者さんがいる方は多く、自分の家系はがん家系なのではないかと心配されている方も多いのではないでしょうか。はたして、がんは遺伝するのでしょうか?図1に見るように乳がんの家族歴は乳がんのリスク因子の一つになっています。
遺伝性乳がん・卵巣がんの特徴とは
最近の研究では、がんの多くは喫煙などの生活習慣や環境要因を原因とする「生活習慣病」であり、がんの5%程度が遺伝性のがんであることがわかってきました。なかでも乳がんでは遺伝性乳がん・卵巣がん症候群、大腸がんでは家族性大腸腺腫症・リンチ症候群がよく調べられています。前者では、BRCA1,BRCA2遺伝子が、後者ではAPC遺伝子が原因遺伝子であることがわかっています。
BRCA1、BRCA2はがん抑制遺伝子の一つで、それぞれ人の第17番、第13番の染色体にあることがわかっています。遺伝性乳がん・卵巣がん症候群ではBRCA1または BRCA2遺伝子の一部に変異があるため乳がん、卵巣がんが起こりやすくなります。BRCA1, BRCA2遺伝子の変異があるかどうかは採血を行って調べることができます。この遺伝子に変異があると乳がん・卵巣がんに罹りやすくなります。BRCA1の変異があると70歳までに50~70%の人が乳がんに、20~45%の人が卵巣がんに罹るリスクがあるとされています。
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群では、乳がんが30~40歳で若年発症し、両側乳がんが多いという特徴があります。また男性乳がんが多いとも言われています。血縁に乳がんが2人以上いる、卵巣がんがいる、若年発症した乳がんがいる人はがん専門病院や大学病院の専門外来を受診して、自分がBRCA1, BRCA2 の変異があるかどうかを調べることができます(表1)。変異の有無は採血で調べることができますが、保険適応ではないため有料で20~30万円かかります。
乳がんを予防することはできる?
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の乳がんは、トリプルネガティブという悪性度の高い乳がんが多く、今までの抗ホルモン剤や抗がん剤が効きにくいことが指摘されていました。最近新しい抗がん剤が開発され有効であることが確かめられていますが、再発リスクの高い乳がんです。
BRCA1やBRCA2に変異を持つ女性の乳がんの発症予防に対しての薬物はありません。唯一、予防的乳房切除、卵巣・卵管切除が発症予防になるとされています。米国の有名女優はBRCA1の変異を持つために、予防的な乳房切除、卵巣・卵管切除を受けたことが報じられています。米国では、予防的乳房切除、卵巣・卵管切除が普及していますが、日本ではごく限られた施設で自費診療で行われています。
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の心配な方は、病院のホームページで「遺伝カウンセリング外来」を確認し、受診・相談してください。一般の女性の乳がんの対策は、40歳からのマンモグラフィ検診です。ご自分の乳がんリスクを知りたい方は、アメリカ国立がん研究所のホームページで、簡単な乳がんのリスクを知ることができます。
※アメリカ国立がん研究所のホームページには、簡単な乳がんのリスクを計算するツールがあります。年齢、初めての生理の年齢、出産年齢など、8項目を入れて、ボタンを押すと、乳がんのリスクを計算してくれます。
乳がんと遺伝(PDF:523KB)
乳がん検診に関する記事は、「健康づくりウォッチ」(2018年1月刊行)にも掲載されています。ぜひご覧ください。
著者
内田 賢 Ken Uchida
明治安田新宿健診センター 所長
内田 賢 Ken Uchida
明治安田新宿健診センター 所長