公益財団法人 明治安田厚生事業団

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研究の紹介

疲労困憊運動後の判断力は脳内の酸素化レベルの回復度合いが鍵になる?

概要

スポーツの試合では、疲労困憊しつつも高い判断力が求められます。それではなぜ、スポーツ選手は高い判断力を維持することができるのでしょうか。また、疲労困憊しつつも高い判断力を維持できる選手と、できない選手の違いとは何なのでしょうか。

我々は、疲労困憊を伴う運動が、判断力や集中力を司る認知機能に与える影響の一部について明らかにしました。低強度から中強度の運動は、脳内で処理される認知機能の反応を向上させることが知られています。しかしながら、疲労困憊運動が認知機能に及ぼす影響については明確なエビデンスが示されていませんでした。

本研究では、「疲労困憊運動条件グループ」と「安静条件グループ」を設定して実験を行いました。その結果、疲労困憊運動後の認知機能向上の鍵を握るのは、脳内の酸素化レベル(註1)の回復度合いである可能性が高いことがわかりました。

(註1)酸素化レベル
酸素、または二酸化炭素と結合しているヘモグロビンの生体内での割合。

背景

近年、運動の実施が認知機能を向上させることが明らかとなり、その現象に関与している脳内の神経伝達物質(註2)や酸素化レベルに注目が集まっています。これまでの研究で、低強度から中強度の運動が認知機能を向上させることがわかっていますが、疲労困憊を伴う高強度の運動が認知機能にどのような影響を与えるかは明らかにされていません。そこで、本研究では、「脳内の酸素化レベル」に着目し、疲労困憊を伴う高強度運動と認知機能の関連を明らかにすることに試みました。


(註2)神経伝達物質
神経細胞終末からシナプス間隙に放出され、次の神経細胞などに興奮または抑制の作用を引き起こす化学物質の総称。

内容・成果

対象と調査方法

健康な成人男性を対象として、下記の2グループに分けて実験を実施
1.疲労困憊運動条件グループ:18名
自転車エルゴメーターをペダルの負荷が段階的に重くなるように設定し、漕げなくなるまで運動を実施(本研究の対象者は20~30分間で疲労困憊に至った)。
2.安静条件グループ:14名
イスに座り安静を保った状態(30分間)

各条件とも前後に下記の項目を評価
1.認知機能の評価:認知課題における正解率と課題処理までに要した時間(反応時間)
2.運動の強度の客観的評価:血液中の乳酸濃度
3.神経伝達物質の評価:血液中の脳由来神経栄養物質(註3)の濃度
4.脳内の酸素化レベルの評価:近赤外線分光法による前頭前野の酸素化レベル

(註3)脳由来神経栄養因子
通称BDNF。神経細胞の発生や成長、維持、修復に働き、学習や記憶、情動、などにおいても重要な働きをする。


結果

疲労困憊運動中に低下した脳内の酸素化レベルの回復度合いが早い者ほど、運動後の認知課題に短時間で処理できることが示されました。つまり、認知課題に対する反応時間と脳内の酸素化レベルの回復度合いの間には、負の相関関係があることがわかりました(図1)。一方、脳内の酸素化レベル以外の測定項目では、認知課題への反応時間との間に関連性はありませんでした。また、認知機能に関連することが指摘されている脳由来神経栄養因子の濃度に、運動前後で変化はみられませんでした。
図1 認知課題の反応時間と脳内の酸素化レベルの回復度合いの相関関係

まとめ

本研究の結果より、疲労困憊を伴う運動後の認知機能は、脳内の酸素化レベルの回復度合いが鍵となる可能性が示唆されました。また、個人により、運動後における脳内の酸素化レベルの回復度合いが異なることがわかりました。スポーツ現場では、試合中における激しい運動と並行して認知機能の一つである「状況判断」が求められます。本研究の知見は、個々の脳における特性を生かしたゲーム戦略の立案に応用できるかもしれません。

今後の予定

運動の実施により得られる効果は、個人特性や環境因子の影響を受けるため一定とは限りません。今後は、個人的な特性にも焦点を当て、様々な条件下における運動と認知機能の関係について検証していきたいと考えています。


掲載雑誌
SUDO M, KOMIYAMA T, AOYAGI R, NAGAMATSU T, HIGAKI Y, ANDO S.
Cognitive function after exhaustive exercise. European journal of Applied Physiology (in press).
本研究は、科学研究費助成事業(科研番号:25702039)の助成を受けて行われました。

研究メンバー
電気通信大学大学院 情報理工学研究科 安藤 創一
福岡大学大学院 スポーツ健康科学研究科 小見山 高明、青柳 遼
福岡大学 スポーツ科学部 桧垣 靖樹
明治安田厚生事業団 体力医学研究所 永松 俊哉

著者
明治安田厚生事業団 体力医学研究所 須藤 みず紀
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