公益財団法人 明治安田厚生事業団

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研究所レポート

城所研究員に聞きました

城所研究員は2020年4月に体力医学研究所に着任しました。今回は、これまでの研究や、研究所での新しい研究への意気込みを伺います。


これまでは、小中学生を対象とした研究をしていたそうですね

そうです。これまで、小中学生を対象に身体活動や体力と生活習慣病リスクとの関係性について、研究を進めてきました。生活習慣病というと「大人の病気」という印象を持つかもしれませんが、主な原因となる動脈硬化の進行は10歳前後で始まるとされています。さらに、生活習慣の基盤は子ども期に形成されます。このことからも、将来の疾病を予防し、生涯健康を実現するための礎は、子どもの頃に確立するといえるでしょう。
こうした背景をふまえ、子どもの生活習慣病リスクを軽減するために、「どの程度の身体活動および体力が必要か?」をテーマに、一連の研究を進めました。これまで長野県佐久市に在住する計2000人以上の小中学生にご協力いただき、身体活動、座位活動、体力、血液項目等のデータを蓄積することができています。これまでの研究より、1)新体力テストの成績がDもしくはEの児童・生徒で血中脂質項目が好ましくないこと、2)特に体力が低い児童・生徒が体力向上をすることで、血中脂質項目の大きな改善が見込まれること、3)体力を高めることで肥満による悪影響を相殺できる可能性があること、などを明らかにしてきました。
※毎年、小中学校で実施されている体力テスト。8つの体力テストで構成されて、5段階で評価される(A~E)。

最近では、「運動不足」に加えて、「座りすぎ」が大きな健康問題となっていますね

そのとおりです。一方、私たちの身の回りには「座らざるを得ない環境」が多いのも事実です。たとえば、学齢期の児童は、1日の大部分を過ごす学校内において、基本的に「座って授業を受けること」が求められています。そんな「座位中心の学習環境」を「活動的な学習環境」に変えることを目指し、私たちは立位で作業ができる机(スタンディングデスク)を小学校学級に導入する取り組みを行いました。
現場の反応はいかがでしたか?

スタンディングデスクを使った子どもたちからも、担当教員からもとても喜ばれました。特に、グループ活動の際にスタンディングデスクがよく使われていたようです。今回キャスター付きのスタンディングデスクを導入したのですが、子どもたちは、デスクごと移動して班をつくり、立ちながらグループ活動を活発に行っていました。導入後に行ったインタビュー調査からも、「動き回れるからいろんな人と話せた」、「気軽に話し合い活動ができた」、「眠気がどこかにいった」、「体力がついた」などの好意的な感想が多数あげられました。そもそも、子どもにとって、1日中座り続けて学習する従来のやり方に少し無理があると思うのです。「身体を動かしながら、国語や算数をする」、そんな風景があってもいいと思っています。

最近「International Journal of Environmental Research and Public Health」に、ケニアと日本の子どもの身体活動・座位活動パターンを比較した研究が掲載されましたが、これはどのようなきっかけで始められたのでしょうか?

国際比較研究は、自国の問題について考える際に、新たな視点を与えてくれることがあります。たとえば、海外旅行にいって初めて、日本の良さ(清潔、時間を守る、食事がおいしいなど)に気づいたりすることがあると思いますが、こういったことは案外、日本にいるときには気づかなかったりします。日本の子どもの身体活動について考える際にも、文化や生活環境が全く異なる国を比較対象にすることで、私たちの「強み」や「課題」を明らかできると思い、国際共同研究を立ち上げました。さらに、ケニアは世界屈指のトップアスリートを輩出する国(特に陸上競技・長距離種目)として有名であり、子どもの体力が極めて高いことが報告されています。その秘密は遺伝なのか、環境なのかという興味もありました。
研究結果を教えてください

日本の小学生と比べ、ケニアの小学生の活動量が多く、最も顕著な差が「放課後」の時間に見られました。私は、この両国の差は「外遊び」に起因するものだと考えています。ケニアの小学生の多くは、放課後、学校の校庭などで日が暮れるまで友達と外遊びをします。こうした風景は昔の日本にはよく見られていたと思いますが、近年では塾や習い事など、小学生の多忙化が進み、失われつつある文化になってしまっています。我が国の子どもの身体活動を取り巻く環境について、改めて考えさせられる結果でした。
一方、日本の小学生の良さも明らかになりました。それは「歩いて学校に通う子どもの割合」です。日本では、歩いて学校に通うことは当たり前になっていますが、海外を見渡しても、こうした慣習がある国は非常に珍しいです。このような日本独自の慣習は世界に誇るべきものだと思います。

本研究所ではどのような取り組みをしていく予定ですか?

研究所では、勤労者および高齢者を対象とした研究プロジェクトに携わっています。新たな対象者ということで勉強すべき点も多いですが、早くキャッチアップしたいと思います。また、これまでの子どもの研究で得た知識や経験も生かせると思っています。個人としては、子どもから高齢者まで、生涯を通じた研究(ライフコース研究)に発展させていきたいです。さらに、研究所のメリットはさまざまな異なる分野の研究者がチームとなってコラボ研究している点です。私も、自分の立場から新たな視点を加えていければと思います。
最後に、これからの研究に対する意気込みを聞かせてください

自身のキャリアを考えた際に、30代は非常に重要な時期であると位置づけています。研究に専念し、第一線の研究に多く携わり、研究者としての経験値を広げていきたいと思います。また、40代になったら、大規模な国際研究を立ち上げたいという夢もあります。その意味で、この10年間は修行の期間であり、大事にしたいと思います。



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